第四章 訓練生の一日

3/22
前へ
/282ページ
次へ
更に救助隊員となる為には、実技と筆記の試験に同時に受かる必要があり、これがルーク教授のおかげでアカデミー生も真っ青なレベルに叩き上げられてしまったのだ。 『命を賭ける職務に甘さなど必要無い』 文句を言った生徒に、ルーク教授はこの一言で黙らせ、生徒の背丈ほどもある課題を言いつけたそうだ。 今や、正面切ってルーク教授に文句を言う強者は存在しない。 いつも通りの時間に教室に着くと、何故か室内は葬式のように静まり返っていた。 「どうしたんだ? 何かあったのか?」 「どうしたって……お前、これ読んで無いのかよ!」 噂好きでこの街一番の情報通を自称しているフィンが、クシャクシャになった紙を突きつけてきた。 「ああ、鷹使いの家系が結婚するらしいな。それで、何か落ち込むような事があったか?」 「お前! ここ! ここ、見ろって! 相手は、相手は、え、エヴァ様だぞ!」 「ああ、そう書いてある」 クラウス以外の学友達は涙に溺れていた。 「エヴァ様と言えば、この国でも一、二を争う……いや、世界でも指折りの美人で!」 「俺たちみんなの憧れだぞ!」 「そうなのか?」 クラウスの惚けた返答に、全員が詰め寄った。 「お前の血は緑か!」 「信じられねぇ、あの! エヴァ様だぞ!」 「あ、ああ、ええと……有名なのか?」 更に惚けた回答を重ねてしまったらしく、フィンは大げさにため息をついて見せた。 「お前、疎いにも程がある」 「いや、そ、そんなに有名だったのか?」 なんとなくコソコソと隣の席のカティスに尋ねると、静かに首を振った。 「俺たちくらいの年頃なら、この肖像画が出回ったら夢中になるのが普通……らしい」 と、大切に薄手の木の皮で保護してある肖像画を見せてくれた。この少女ならば、クラウスも肖像画を見た事がある。 公主様の生誕祭に合わせて、公主の家族の肖像画と共に、名だたる画家が高貴な身分の娘達を描くのは通例となっている。その美しさに憧れを持つのだが、エヴァの肖像画だけはずば抜けていた。 何処に展示しても一瞬目を離した隙に無くなってしまい、量産された写し(カティスが持っているのも、それだ)は飛ぶように売れ、国の隅々まで彼女の輝くばかりの美しさは知れ渡った。
/282ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1531人が本棚に入れています
本棚に追加