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更に救助隊員となる為には、実技と筆記の試験に同時に受かる必要があり、これがルーク教授のおかげでアカデミー生も真っ青なレベルに叩き上げられてしまったのだ。
『命を賭ける職務に甘さなど必要無い』
文句を言った生徒に、ルーク教授はこの一言で黙らせ、生徒の背丈ほどもある課題を言いつけたそうだ。
今や、正面切ってルーク教授に文句を言う強者は存在しない。
いつも通りの時間に教室に着くと、何故か室内は葬式のように静まり返っていた。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「どうしたって……お前、これ読んで無いのかよ!」
噂好きでこの街一番の情報通を自称しているフィンが、クシャクシャになった紙を突きつけてきた。
「ああ、鷹使いの家系が結婚するらしいな。それで、何か落ち込むような事があったか?」
「お前! ここ! ここ、見ろって! 相手は、相手は、え、エヴァ様だぞ!」
「ああ、そう書いてある」
クラウス以外の学友達は涙に溺れていた。
「エヴァ様と言えば、この国でも一、二を争う……いや、世界でも指折りの美人で!」
「俺たちみんなの憧れだぞ!」
「そうなのか?」
クラウスの惚けた返答に、全員が詰め寄った。
「お前の血は緑か!」
「信じられねぇ、あの! エヴァ様だぞ!」
「あ、ああ、ええと……有名なのか?」
更に惚けた回答を重ねてしまったらしく、フィンは大げさにため息をついて見せた。
「お前、疎いにも程がある」
「いや、そ、そんなに有名だったのか?」
なんとなくコソコソと隣の席のカティスに尋ねると、静かに首を振った。
「俺たちくらいの年頃なら、この肖像画が出回ったら夢中になるのが普通……らしい」
と、大切に薄手の木の皮で保護してある肖像画を見せてくれた。この少女ならば、クラウスも肖像画を見た事がある。
公主様の生誕祭に合わせて、公主の家族の肖像画と共に、名だたる画家が高貴な身分の娘達を描くのは通例となっている。その美しさに憧れを持つのだが、エヴァの肖像画だけはずば抜けていた。
何処に展示しても一瞬目を離した隙に無くなってしまい、量産された写し(カティスが持っているのも、それだ)は飛ぶように売れ、国の隅々まで彼女の輝くばかりの美しさは知れ渡った。
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