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クラウスだけではなく、父の事も。大怪我をして戻り、半死半生で三日三晩生死の境を彷徨い、ようやく枕をあげても、毎日生気のない青白い顔をしていたのが、ホリーの心尽くしの料理や世話を受けるようになってから見違えるように元気になった。
正に、ホリーは父にとっての救世主であったのだ。さすがはオールのお眼鏡に叶っただけある。
「お前、またあの子の事考えてるな」
「……俺はそんなに顔に出るのか?」
エヴァの婚約に嘆く級友達を他所に、カティスと二人で語らう。元々、弾けた豆のように勢い良く話す友が多い中、知的で思慮深く、穏やかな性質のカティスとは気があうのだ。
「出る。お前はあの子の事を考えている時、物凄く優しい顔になる。会った事が無くても、良い子だと分かる。それに、ホリーはあのリリーの子だろう?」
「ああ、カティスの所で働いてた事があるんだったな」
カティスの家は病弱な母親がいる。正確には、いた。彼女はもうすっかり元気になり、溌剌と働いている。
病弱な母を案じて体によい薬草や食べ物を調べては医者に相談して母に与えていたカティスは、母親が本当に……自分自身ですら知らなかった求めていた事を、リリーが紐解くのを尊敬を持って見守った。
「まさか、あんなに身体の弱い母さんが、家族の為にもっと働きたいと思っているなんて知らなかったよ」
リリーが最初にした事は、家中の大掃除。一時期は大きく財を築いていたカティスの家も、今は普通に暮らすだけで精一杯。だが、屋敷だけは広く、使ってない部屋が沢山あったのだ。
綺麗に掃除を終えたリリーは、家で一人留守番するばかりの母の良き話し相手となった。そして、気が付いたら病弱で一日の大半をベッドで過ごしていた人が一日、二日と立ち働くようになり、今では空いた部屋を解放して近所の女の子達に裁縫や礼儀作法を教えている。
「でも、今でも不思議なんだ、クラウス。どうして母さんはあんなに短期間で元気になったんだろう。何時も立ち上がる気力も無いほど病弱だったのに」
「それは気の持ちようというものでしょう」
二人の背後から聞こえる穏やかな優しい声に応じて急いで身構えたが、もう遅かった。フワリと綺麗に弧を描いて振り回され、次の瞬間には教室の天井を眺めていた。
何とか受け身を取ったクラウスとカティスは直ぐに立ち上がれたが、他の学友達はまだ目を回していた。全員、綺麗にぶん投げられたのだ。
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