第四章 訓練生の一日

6/22
前へ
/282ページ
次へ
立ち上がったが直ぐに頭を抑えられる。 「人は人と関わって生きるものです。誰かから、いつでも必要とされたいのです。カティスの母上は、自分は役立たずだと自分を追い詰めていたから、立ち上がる気力も無かったのでしょう」 「「フェルナンド先生……」」 「はい、おはようございます。私の記憶が確かならば、もうとっくに授業が始まっていますね? それともここだけ、時間の流れが違うのですか?」 フェルナンドは現役の隊員で、救助隊警備班の隊長だ。穏やかな風貌と紳士的な行動で女性の心を鷲掴みにしているが、本人は生徒の頭を鷲掴みにするのが得意だ。 彼の肩で大人しくしている相棒のオナガ鳥のクロも、可愛らしい外見を裏切る強みを持っている。 すみません、と素直に謝ると、フェルナンドはようやくクラウスとカティスの頭を離して、床に落ちた肖像画を拾った。 「全く、人騒がせなお嬢さんですね。それに、君達も情けない。何ですか、一度や二度の失恋ごとき」 「そ、そんなの……先生はかっこいいし、モテモテだから、俺たちの気持ちなんてわかりませんよ!」 「それは分かりますよ。私も妻に会う前、大失恋してますからね」 「「えー?? いつ! 誰に! どんな人? 俺たちも知ってますか!」」 早くも立ち直ってフェルナンドを取り囲む学友達だったが、丸めた教本で順番に頭を叩かれただけだった。 「無駄話は終わりです。さあ、直ぐに授業を始めます」
/282ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1531人が本棚に入れています
本棚に追加