第四章 訓練生の一日

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『差し出がましいかと思いましたが、アーニャ様にお弁当を届けて頂きました。本日は実地訓練との事でしたので、万一に備えて携帯出来るようにサンドイッチにしました。お怪我をなさらぬよう、お気をつけて下さい』 思わず顔を綻ばせてしまう。直ぐにカティスが戻ってきた。 「今日はやけに食堂が空いてると思ったら、下級生は全員、迷宮に採取訓練に出てるんだってさ」 「あー、野営プログラム付きの、アレだな」 「アレは地獄だったな~。食い物探すのがな~」 「そうだな、寝る場所の確保も難しい」 「下手したら帰ってこれなくなるからな」 和やかに話しながら昼食を食べていると、テーブルに乗っているカップが細かく震え始めた。 直ぐに、足元を突き上げるような揺れが襲う。直ぐにクラウスはカティスと共にテーブルの下に潜って揺れが収まるのを待った。 日頃から訓練を積んで卒業間近の訓練生ばかりだっただけに、食堂内のパニックは全くなかった。全員が冷静に行動し、入り口付近にいた生徒は扉を解放しておいて逃げ道の確保を怠らない。 揺れが収まると、全員素早く荷物をまとめて敷地内の避難スペースへ向かう。食堂で働く人々も火の元を断ち、一緒に避難スペースへ向かった。 「結構大きかったな。雪崩が起きそうだ」 「そうだな……」 地震と雪崩は何時も起こりうる事だ。だが、今は時期が悪い。短い春の訪れで、雪山は一層崩れやすくなっている。揺れの規模によっては、大規模な雪崩が発生し、特に雪山の麓に住んでいる猟師達の集落は危ないだろう。 訓練生全員の無事を確認したフェルナンドは、 「よし、全員いるな! 今日の訓練は中止だ。だが、人手が足りないので全員救助隊の補佐を頼む!」 「は、はい!」 今日の朝から迷宮に潜っている下級生達の安否が分からない、とフェルナンドは青い顔で続けた。 「よりによって広範囲に広がっていて、全員を確認して安全を確保するには人手が必要だ。午前中に配ったチームに分かれて、それぞれ救助隊員の指示の元、下級生たちを救助する。場合によっては落盤、雪崩が発生している事もある。十分に注意しなさい」 「はい!」 「クラウス、カティス、君たちのチームは私が先導する。ついて来なさい!」 「はい!」
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