第四章 訓練生の一日

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「メインゲートは塞がれてしまった。各隊、チームに分かれて入口を捜索。見つけた者は狼煙を上げ、そのまま捜索に移る」 ルークの広げた地図の上にフェルナンドがもう一枚地図を重ねた。 「幸いにも下級生の野外実習ですので、深い階層まで侵入している者はいません。全員の装備品は、一昼夜を過ごせる程度。怪我も無く無事であった場合のリミットは明日の朝まで」 地震により、内部で落盤が起こっている可能性も高い。最悪の場合、落盤に巻き込まれて大怪我、足元が崩れて下の階層に落下している可能性もある。 下級生がいるエリアは、一般市民でも出入り出来る程度の比較的安全な場所だ。だが、万が一にも下に落ちてしまった場合、何の心得も無い者は生き残れない。 地上では見たことも無い危険な獣、虫、向こうに気づかれたら即襲われて命の危険に直結する。それらから自分の身も、対象者も守る為に救助隊員は日々厳しい訓練を積むのだ。 「全員に戦う力はありますが、いきなり下層に落とされて冷静に戦うスキルはないでしょう。誰かさんと違ってね」 フェルナンドの言葉に、全員がクラウスを見た。だが、その英雄譚は父のものだ。 まだ若かりし頃、父もクラウスと同じく訓練生だった。初めての野外実習で落盤事故に遭遇。更に友人を庇って、たった一人で下層に落ちてしまったのだ。 状況からして生存すら絶望的であったのに、オールが居場所を探し当てた時には、のんびり野営をしていたと言う。 その背後には退治された獣の山。ロルフの血の匂いに惹かれて集まってしまったのを、一人で撃退していたのだ。 そしてオールの姿を見て、これまたのんびりと言ったそうだ。 「よう、オール。遅かったな。お前の見せ場が無くなったぞ」 この冗談のような英雄譚は、救助隊員はおろかこの町に住む者なら誰でも知っている。全員が思わず笑っていた。 「アレは規格外だ。計算に入れると、計画が狂う」 ルークは冷静に呟いて、フェルナンドの乗せた地図の上に白紙の束を乗せ、紙に手を当てて何事か呟くと白紙の紙は全部地図になった。地図に入っているポイントは、下級生達がそれぞれ探索に向かった場所。 ポイントは全て、よく効く薬草の採れる場所だ。
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