第四章 訓練生の一日

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「さっきから呼びかけてるけど、へ、返事がなくて……でも、僕たちじゃ助けに行けなくて……」 「俺たち、これから救助隊員になるのに……」 友人が心配で、それなのに自分達は何も出来ずに悔しくて泣いているのだ。 「お前等、馬鹿じゃねぇか?」 「フォルク!」 傷付いて泣いている下級生を前にフォルクは平然と呟き、 「何も出来ないって? 十分役割を果たしただろ。まず、ここを動かなかったのは正解だ」 フォルクは人懐っこい笑みを浮かべると、下級生達の頭をワシワシ撫でてやっていた。 焦って動いてたら彼等も友人の二の舞だったかも知れないし、闇雲に歩き回って遭難したかも知れない。ここに友人が落ちたとの知らせが遅れる。結果、救助が遅れて友人が死ぬかも知れない。 訓練生として最初に教わる事だ。 「まずは、自分の命を守れるようになれ。そして、救助の妨げとなるな。目の前に即命の危険が無い限り、動くな」 「それだ。さすが、クラウス様」 フォルクに名前を呼ばれた事など無い。わざと名前を出したのだ。この暗がりの中、誰が自分達を助けに来てくれたのか。 気にくわない男に顎で使われている気分だったが、落ち込む下級生を励ますためだ。 「俺も、同じ判断をする」 「クラウスさん……」 本物だ、と下級生達は僅かに声を弾ませた。たった一人の狼使いの名は、彼等をこうも励ますらしい。 見る間に元気を取り戻した下級生達は、表で狼煙を上げていたアッシュの手を借りて迷宮から這い出て保護された。 フェルナンドはアッシュに、下層に生徒が落ちた可能性を伝え、引き続き捜索する事をルーク教授に報告するよう指示している。アッシュの相棒である鳩のグレイならばお手の物だ。 その間、フォルクを先頭にクラウス達は深く空いた穴を確認する。 「二人共、これ以上進むな。落ちるぞ」 フォルクは松明を持っていないのに、的確に注意してくれた。 「お前、なんで……」 「俺は夜目が利くんだよ。コイツと相棒になってから、な」 フォルクは肩に止まっているナハトを指差した。それなら、クラウスにも身に覚えがある。猟犬使いも、狼使いも、相棒と同じく鼻が鋭くなり、身体能力が飛躍的に向上するのだ。 通常鳥使いは異様に視力が良くなり、極端に夜は見えなくなるので、フォルクは非常に珍しい使い手なのだ。
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