第四章 訓練生の一日

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しかし、そのフォルクの目を持ってしても見える範囲に下級生達は居ないようだ。 「ナハト」 「ホー……」 やれやれ、と億劫そうに穴を覗き込んだナハトは直ぐに確認の為に穴に入っていった。 「先生、下はかなり深そうです。ここから落ちたとなると、その……」 怪我をしただけならば、上から呼ぶ声に答える事が出来た筈だ。つまり彼等は今、大きな声を上げられる状態では無いか、声が聞こえないほど落下したか……。 危険な所だと知っていても、いきなり突き付けられた最悪の事態にフォルクも、クラウスも、カティスも言葉を失った。 三人共、一番最悪の事態に突き当たってしまったのだ。 「コラ、優等生共!」 ポコポコと、軽く固めた全然痛く無い拳で全員順番に頭を叩かれた。 「暗くなるのはまだ早い。ナハトが戻って来るのを待とう。ただし、この先は君達にはまだ酷かも知れないね。狼煙で隊員も集まるし、交代しよう」 足元で見上げてくるオールと目が合った。フェルナンドの言う通り、引くべきなのかも知れない。ここより下層は現役の救助隊員でも危険な場所。一瞬の油断で命を落としかねない。 「先生。私達では、手は足りませんか?」 「いや? 十分過ぎるだろうね。経験が無い分頼りないけど、戦力としてはあてにしているよ」 「では、このまま一緒に行かせて下さい」 オールが足元にゴツリと頭をぶつけてきた。「よく言った」と褒めてくれている。だが、直ぐにオールはクラウスに飛びかかってきて、驚いて倒れるクラウスの上に覆い被さってくる。 「オール?」 『伏せていろ、クラウス! 小僧共も伏せろ!』 オールの言葉がわかるカティスの相棒であるカルロスもカティスに覆い被さり、言葉は分からないが気迫に押される形でフェルナンドとフォルクも身を伏せた。 次の瞬間足元が大きく揺れ、低い轟音とともに入って来た入口が雪で埋もれてしまった。低い唸り声の様な音が頭上を通り過ぎていく。 雪崩が発生して入口を塞いでしまったようだ。オールが知らせてくれなければ、直ぐそばに口を開けている穴に落ちてしまったかも知れない。 「アッシュ!」 いち早く立ち上がったフォルクが入口に駆け寄るが、雪で埋もれた向こう側を知る術は無い。 「フォルク、大丈夫だ。向こうの方が先に雪崩に気付く。下級生達を連れて、アッシュは必ず無事でいる」
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