第四章 訓練生の一日

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ナハトが戻ったら、ここから出る道も探さなくては。フェルナンドの冷静な声にフォルクも何度も深呼吸をして何とか落ち着きを取り戻した。 「……分かりました」 待つしか無いとなると、体力は温存する方が良い。クラウスが剣を抱えて座り込むと、隣にカティスも座り、二人を囲むようにオールとカルロスが包み込んだ。 「なぁ、クラウス。あいつ、思ってたより良いやつっぽいな」 「……そうだな」 苦手であることに変わりは無いが。 当のフォルクは、アッシュが心配で座る気にもならないらしく、入口付近の壁に寄りかかったままだ。 薄闇の中で待ち続ける事、半時。ようやく穴の中からナハトが戻ってきたが、何故かフォルクの側に寄ろうとせず、しきりに羽を震わせる。その度にキラキラ輝くものが舞い散るのだが……。 『クラウス! あれは毒だ。吸い込むな!』 「毒?」 急いで布切れで口と鼻を覆う。皆に知らせるまでも無く、全員口と鼻を覆って毒を吸い込まないようにしている。 ようやくナハトの行動の意味が分かった。何処かで毒の粉を被ってしまったのだろう。それを皆に広げないように、控えめに羽を震わせて落としていたのだ。 「オイ、クソジジイ! 大丈夫なんだろうな、無理してねぇでさっさとこっちに来い!」 フォルクは自分の身よりも毒の粉を被ったナハトを心配して駆け寄ったが、逆に鉤爪で蹴倒されていた。 「ホー、ホッホー!」 何を言っているか当然分からないが、『小僧に心配される程、落ちぶれておらぬわ!』と言ったところだろう。 「いてぇな、クソジジイ! 人が下手に出りゃいい気になりやがって!」 せっかく毒を吸い込まないように覆った意味が無くなる程、フォルクが怒りを露わにすると、フェルナンドが慌てて安全圏まで引き下げた。 「落ち着きなさい、フォルク。ナハトは賢い梟だよ。この毒は、吸い込まなければ無害だ」 「……本当ですか」 「こんな非常事態で嘘なんかつかないよ。ナハトは大丈夫だ」 安心したのか、フォルクはその場に座り込んだ。 「そうか。クリスタルモルフォだ」 「その通り。さすがはカティスだね」 美しい名を裏切らない、クリスタルのように輝く羽を持つ、美しい蝶の名だ。本来は暖かい地域に生息しているが、迷宮内に住まう珍しい種類が存在する。 美しい外見にそぐわぬ、獰猛な捕食者として。
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