第四章 訓練生の一日

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深い深い、闇の中。もうどのくらい縮こまっているか、分からない。肩を寄せ合う皆の温もりだけが、これが現実であると伝える。 願わくば全てが悪い夢であって欲しい。 「なぁ、アルフ……皆、大丈夫かな……」 「……大丈夫だよ」 そんなの分からない。分からないけれど、白い繭の中に包まれた皆の意識は完全に無いが、脈がある。それに、温かい。 (もっと、真面目に勉強しておくんだった……) 狼王に憧れて訓練所に入ったが、アルフは自分の好きな剣術の稽古ばかりに力を入れていた。いつか、狼王ロルフのように強くて格好良い男になる為に。 それなのに、訓練所に入ったら半分は勉強の時間。歴史なんて興味が無いし、危ない動物、植物、そんなもの知るよりも、それを上回る程に強ければ良いのだと馬鹿にしていた。 地震が起きて直ぐ、アルフ達は側で採取しているコラード達と合流するべく進んでいた。幸いにも素早く見付けて、駆けよろうとしたら……。 地面の大きな裂け目に気付けず、そのまま落下してしまった。もう完全に死んでしまうものと覚悟を決めて相棒を抱きしめたが、何とか柔らかい物の上に落ちて無事だった。 だが、直ぐに次の恐怖が目の前に迫る。 「クリスタルモルフォだ!」 と、誰かが叫び、鳥を相棒として連れていた仲間は、直ぐに鳥達に逃げろと空に放った。猟犬や人は捕食対象では無いが、鳥達は捕まったら食べられてしまう、と。 驚いて固まっていた猟犬クラスの仲間は無事だったが、巨大な蝶の前で動いていた鳥クラスの仲間は全員、蝶に取り囲まれて白い糸でグルグル巻きにされ……。 必死でそれぞれ白いマントで繭の中に紛れて、何とか自分と二人の友人は無事だ。 「とにかく、ここで……助けを待つしか……」 「でも、み、見付けてもらえなかったら、僕達……」 人が食べられる事は無いらしいが、繭の中には白骨化した大きな獣や……きっと、探せば人の骨も……。捕まったら身動き出来ずに衰弱死してしまうのだ。 「みんなを、助けなくちゃ……」 「でも、どうやって? ナイフでも、切れないし……」 蝶が落ち着いてから、何度かアルフ達は友を助けようと試みた。頑丈な繭の糸はナイフでは断ち切れず、派手に動けば自分達も餌食になってしまう。
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