第四章 訓練生の一日

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「大丈夫だ、俺達が落ちた時、コラード達がいた。きっと今頃、助けて貰って、俺たちのこと伝えてくれてる……」 「そ、そうだよね……だ、だいじょうぶ……」 アルフは心細そうに鼻を鳴らす相棒のジェイドの首筋を撫でてやる。 (ロルフ様は一人で落ちても平気で戦ったんだ。それなのに……) アルフは情けなかった。皆で小さく固まって震えているしか出来ないなんて。 「さっき迷い込んでた梟は大丈夫だったかな……」 「あいつが僕達の事伝えてくれたら良いのにね……」 一度だけ、蝶が再度活発に動いたのでアルフ達は慌てて身を固くしていたが、梟の鳴き声が聞こえただけだった。梟は蝶を避けて飛びながら、チラリとこちらを見ていた気がする。 「無理だよ。梟の言葉が分かるのは、一人だけだし……隊員じゃ無いし。それに、クラウス様の敵だし! 俺は、あんな奴に助けて貰うなんて、ごめんだな!」 アルフの憧れる狼王の一人息子、クラウスはロルフのように強くて、格好良くて、試合形式の模擬訓練を見ては、アルフも一生懸命クラウスの真似をしていた。 その尊敬するクラウスの前に生意気にも立ちはだかる……名前は忘れたが、とにかく薄汚れた梟を連れた男をアルフは心底嫌っている。 そうだよな、と頷きあうと、何だか少しだけ元気が出た。そうとも、自分達はあのクラウスの後輩なのだから、しっかりしなくては。今は分からなくても、色々試せば友人達を助けられるかも知れない。 「……なんか……音がしない?」 全員で耳を清ますと、真っ直ぐに風を切る音が聞こえて、三人が隠れているマントの側を一羽のオナガ鳥が通り過ぎた。 「い、今の、クロだ! フェルナンド先生が側にいるんだ!」 アルフは立ち上がりかけて慌ててグッと堪えた。わざわざクロがクリスタルモルフォの巣に飛び込んで来たのは、危険な蝶を誘導する為だ。 その思惑は見事にはまり、手頃な獲物に目を付けた蝶が一斉に羽ばたいた。 「アルフ、蝶が全部クロに向かって行ったよ。今の内だよ!」 「うん!」 小柄で可愛い外見だが、オナガ鳥は飛行能力がずば抜けている。大軍とは言え、動きの鈍い蝶の群れなど敵では無かった。 おそらくフェルナンドの所に誘導しているのだろう。少し離れた場所に、弓矢で倒された蝶が落下した。
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