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痛みを覚悟して身を固くしていたが、何処も痛くない。
「ギャン!」
「グガアァ!」
ハイエナの鳴き声に身を震わせるが、何も感じない。あまりの恐怖に体の感覚が無くなってしまったのだろうか。震える手の甲に、温かくて柔らかいものが触れた。
「ジェイド……」
おそるおそる目を開くと、手の甲をジェイドが舐めてくれていた。ハイエナの方を向くと、飜るコートに視界が遮られた。
切りはらう一閃。すかさず、戻る刃で薙ぎ払う。流れるように素早く繰り出される蹴りで相手の動きを封じて、次の標的へ。まるで嵐のように激しく、敵を圧倒する。
何度も何度も真似をしてきた……クラウスの背中だ。
クラウスが仕留めたのは、どうやらハイエナの群れのボスであったようだ。ハイエナ達が怯んでいる。
剣を構え、隣にオールを従えて……。
「失せろ」
猟犬達が一斉に尻尾を尻に挟んだ。背中から感じるだけの圧倒感に、気圧されてしまったのだろう。
スゴスゴとハイエナ達は去って行った。安心した途端、ジェイドが軽く手を噛んできた。
「いたっ!」
『先に逃げろって何だ! 今度言ったら絶交だぞ!』
「ご、ごめん……」
振り返る人影は、本当にクラウスだった。
「怪我は無いか?」
「は、はひ! ありまひぇん!」
緊張のあまり、声は完全に裏返ってしまった。
「よく頑張った。だが、まだ気を抜くな」
「は、はい!」
今度はちゃんと返事が出来たが、アルフはクラウスの左腕から血が滴るのを見逃さなかった。
「く、クラウス様! 怪我を……」
「ああ、ちょっと深く切り過ぎたか」
大したことは無い、と呟きながら自力で止血している。
「あ、あう、て、手伝います!」
慌てて三人がかりでクラウスの腕に包帯を巻く。あまり上手では無かったが、何とか様になった。
「ありがとう。逆に助けられてしまったな」
「とんでもない!」
遅れて、クラウスといつも一緒にいる猟犬使いのカティス先輩と、あの梟使いが走ってきて、そのままの勢いでカティスはクラウスの頭を叩いた。
「馬鹿か、お前は!」
「良い作戦だったと思うぜ、俺は」
「黙れ、鉄砲玉共!」
後できちんと手当しろ、ときつく怒ってから、カティスはアルフ達に向かって、
「あいつの真似はいくらしても構わないけど、今日の行動は真似しないように」
「は、はい……」
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