第四章 訓練生の一日

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痛みを覚悟して身を固くしていたが、何処も痛くない。 「ギャン!」 「グガアァ!」 ハイエナの鳴き声に身を震わせるが、何も感じない。あまりの恐怖に体の感覚が無くなってしまったのだろうか。震える手の甲に、温かくて柔らかいものが触れた。 「ジェイド……」 おそるおそる目を開くと、手の甲をジェイドが舐めてくれていた。ハイエナの方を向くと、飜るコートに視界が遮られた。 切りはらう一閃。すかさず、戻る刃で薙ぎ払う。流れるように素早く繰り出される蹴りで相手の動きを封じて、次の標的へ。まるで嵐のように激しく、敵を圧倒する。 何度も何度も真似をしてきた……クラウスの背中だ。 クラウスが仕留めたのは、どうやらハイエナの群れのボスであったようだ。ハイエナ達が怯んでいる。 剣を構え、隣にオールを従えて……。 「失せろ」 猟犬達が一斉に尻尾を尻に挟んだ。背中から感じるだけの圧倒感に、気圧されてしまったのだろう。 スゴスゴとハイエナ達は去って行った。安心した途端、ジェイドが軽く手を噛んできた。 「いたっ!」 『先に逃げろって何だ! 今度言ったら絶交だぞ!』 「ご、ごめん……」 振り返る人影は、本当にクラウスだった。 「怪我は無いか?」 「は、はひ! ありまひぇん!」 緊張のあまり、声は完全に裏返ってしまった。 「よく頑張った。だが、まだ気を抜くな」 「は、はい!」 今度はちゃんと返事が出来たが、アルフはクラウスの左腕から血が滴るのを見逃さなかった。 「く、クラウス様! 怪我を……」 「ああ、ちょっと深く切り過ぎたか」 大したことは無い、と呟きながら自力で止血している。 「あ、あう、て、手伝います!」 慌てて三人がかりでクラウスの腕に包帯を巻く。あまり上手では無かったが、何とか様になった。 「ありがとう。逆に助けられてしまったな」 「とんでもない!」 遅れて、クラウスといつも一緒にいる猟犬使いのカティス先輩と、あの梟使いが走ってきて、そのままの勢いでカティスはクラウスの頭を叩いた。 「馬鹿か、お前は!」 「良い作戦だったと思うぜ、俺は」 「黙れ、鉄砲玉共!」 後できちんと手当しろ、ときつく怒ってから、カティスはアルフ達に向かって、 「あいつの真似はいくらしても構わないけど、今日の行動は真似しないように」 「は、はい……」
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