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揺れが収まると何とかホリーは起き上がり、必死でアーニャの背中に飛び散った皿の破片を取り除く。
「アーニャ様、お怪我はありませんか? わ、私などを庇って……」
オロオロしている間に、サッと離れたアーニャはブルブルと身を震わせて何事もなかったように鼻を鳴らした。
「そ、そうだわ、ロルフさま……」
地震は珍しくも無いが、何度経験しても怖いものは怖い。ガクガクに震える膝を支えながら必死で歩くホリーを置いて、アーニャはさっさとロルフの部屋に向かって行ってしまった。
「ホリー! 大丈夫か?」
「は、は、はい! ロルフさま……」
ロルフはホリーの無事を確かめると頼もしく笑って頭を撫でてくれた。
「よし、では手伝ってくれ。荷物を持って逃げなくては」
「は、はい!」
地震と雪崩は常に共にあり、雪山近くのこの町に住む人々は、いつでも避難出来るように貴重品や非常食をまとめて保管している。
直ぐにも救助隊員がやってきて避難誘導してくれるだろう。何時も通り、ホリーは火の元を確認して、荷物を担いだ。
人の波に流されるまま、ロルフに庇われながら避難所へと向かう。背後を振り返ると、天高く聳える峰は白くけぶって、雪崩が発生しているようだ。
この町まで雪が押し寄せた事は無いが、山の麓にある猟師の集落は危険だろう。
「ホリー、足元に気を付けなさい。転んだら踏まれてしまうかも知れない」
「はい」
万が一に備えての避難に慣れてはいても、大勢の人が一斉に同じ方向に向かうので、一人が転んでも様子に気付かず、後ろから押されてそのまま後ろに続く人も倒れて下敷きになってしまうかも知れない。
何年か前に、そのせいで小さな子供が亡くなったと聞いた事がある。小柄なホリーの体は人に紛れて消えてしまいそうだったが、ロルフが全身で庇ってくれた。
「ろ、ロルフ様、無理はなさらないで下さい……。わ、私は大丈夫、ですから……」
「フフ、引退したとは言え私は狼王なのだよ、ホリー。大丈夫、君を守ってみせよう」
優しく包み込んでくれる腕が温かくて、つい甘えてしまいそうになる。それでもホリーは必死で自分の足でもしっかりと前に進んだ。足元に時折すり寄ってくれるのはアーニャの温もりだろう。とても心強い。
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