第五章 この手に剣は無くとも

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何とか避難所にたどり着くと、住居地区ごとに割り当てられた場所を救助隊員がテキパキと案内している。 若い隊員はホリーを支えるフードを被った男がロルフであると気づくと瞬時に顔を赤くしたが、騒ぎ立てず速やかに案内してくれた。 「ありがとう」 「……光栄です」 少年のように目をキラキラ輝かせて、彼は職務に戻って行った。 「おや、アーニャ。自慢の毛並みがクシャクシャだな。おいで、整えてあげよう」 「キュウン……」 直ぐにアーニャはロルフの膝の上に乗って甘えん坊に戻ってしまった。 「ロルフ様、私は何かお手伝い出来ないか聞いて参ります」 「ああ、行っておいで。無理の無いようにな」 「はい」 避難所には町の住人、迷宮の探索に来ていた冒険者が一緒くたに集まる。折悪しく昼前だった為に、食事の準備が追いつかないだろう。 避難が一通り落ち着くと、女達で炊き出しをするのは通例となっている。 「あら、ホリーちゃん!」 「あ、ナナさん!」 何時も野菜を買っている屋台のお姉さんが、「こっちこっち」と手招きしてくれた。駆け寄って露天商の仲間を紹介されて挨拶をすると、手分けして温かいスープから用意する。 「あらまあ、若いのに手際が良いのねぇ、良いお嫁さんになれるわ」 「ありがとうございます」 美味しそうな匂いに引かれて、子供達が集まると、ナナがポケットから飴玉を出して子供達に分けてあげていた。 「あたし、ついつい甘いの食べちゃうの。いつも持ってるのよ。はい、ホリーちゃんも」 両手が塞がっていたので、口の中にポンと入れて貰った。甘い蜂蜜の味だ。 「美味しい」 「ウフフ、でしょ? お手製なのよ~」 お昼を食べて人心地つく。その間にもちょくちょく揺れが起こっては警戒していたが、次第に落ち着いてくる。けぶる峰は何度か崩れたようだが、町に影響は無いようだ。
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