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第三話【オルゴール付きレースドールの歌姫】
1
雛太は心持ち緊張しながら、ひとつ深呼吸。
そして人形喫茶『ゼペット』の年季の入った木製ドアを開いて店内へ。
「おお雛太。待っていたぞ。いいとこに来た」
いらっしゃいませでも、よく来たなでもなく、そんなことを白シャツ、緑エプロン姿の瞳瑠先輩は雛太に言う。早速いやな予感に襲われた。
「あの……僕、今日はこのお店にご招待されたつもりでいるんですけど?」
「正直に言おう。急きょ人手が足りなくなった。バイト代なら出してやる」
「えー、働けってこと? それで呼んだの?」
「どうせ懐具合も寂しいんだろ? いいじゃないか、ハワイに行った上、金までもらえるみたいなもんだ」
この古めかしい店のどこがハワイだ、と雛太は内心毒を吐く。
「で、早い話が、この店で強制労働の刑?」
「人聞きの悪い言い方をするな。ほんの二、三時間、ウェイターをしてくれればいいだけだ」
雛太は振り返って、教室の広さほどの店内を見渡した。
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