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「では」
瞳瑠先輩は台座自体を握ると、ジリジリ、ジリジリと巻きあげる。
それからまたテーブルに置くと、静かに手を放す。
すると台座を支点としてレースドールが、ゆっくりとした一定の速度で回り出す。
けれど、オルゴールが内蔵されているというのに、何のメロディも聞こえてこない。オルゴール内の機構の作動音だろうか。ジーッという微細な音がただ漏れ聞こえてくるばかりだ。
「これは……?」
「安心して。もらったときから鳴らないだけよ」
「もらったときから?」
「もう五十年も昔の話。あなたたちが生まれるより、もっとずっとずっと前」
「そうなんですか」
「だからね、このお人形さんは何を歌ってるのか、いまだに分からないの」
「オルゴールの曲が何か一度も聞いたことが無いと?」
「ええ……残念ながら」
「確か事前に連絡を頂いた際は、オルゴールの修理は承っていなかったと思いますが……修理いたしますか?」
瞳瑠先輩が顔色を窺いながら尋ねると、
「そうねえ」
若林由紀子はためらった様子を見せた。
「よく分からないのよね……修理できたとしても、私にこの曲を聴く権利があるのかどうか」
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