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「いや、その……なんというか……一度もできたことありませんけど……」
「恋人なんて、私だって大人になるまで一度もいたことなかったわ。でも、恋したことならあるんじゃない?」
「はあ……」
雛太は憔悴してしまって、もはや何とも答えようがない。
横合いから瞳瑠先輩の視線も感じて居心地悪いことこの上ない。
好奇のまなざしを向けて、にやにやしているのだろうか。あるいは――。
「知ってる? 人生ってね、本当に一度きりしか無いの」
「え……?」
「少なくとも私の場合、若いってことは愚かだってことと同義だったわ。何も知らない、何も経験していないってことは、相手にも自分にも、とっても残酷なことなのよ。私も、たくさん人を傷つけた……」
言わんとしていることは分からない。
けれど若林由紀子が、ただならぬ思いで何かとてつもなく重要なことを伝えようとしてくれていることだけはよく分かる。
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