第三話【オルゴール付きレースドールの歌姫】

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    5 「あなたたち、知ってる?」  ひと呼吸おくと、若林由紀子が切り出した。 「本当に大切な恋っていうのは、生涯忘れられないものなの……それが悲しい結末に終わった場合は特にね……」  若林由紀子が寂しげな微笑をうかべて、息をつく。  胸の中にいまだうずまくためらいを全て吐き出すかのように。 「時がたてば失恋の傷は癒えるってよくいうでしょう? 確かにそれはまったく嘘ってわけじゃない。でも体にできる傷跡と同じでね、深く刻まれると幾らか薄れはしても、一生消えない。一年経っても十年経っても、それこそ五十年経ってもね」 「五十年経っても?」 「そうよ。私も知らなかったわ。そんなことがあるなんて」  ――五十年後、僕は六十五歳だ。  自分がどんな風になっているのか想像もつかない。そんな歳になるまで今感じた思いを、ずっと抱えて生きるってこと?  そんなことがありえるとは、雛太はにわかには信じがたい。  さほど面白くもおかしくもない、平凡としか言いようのないありふれた日々が、それほどの重みを持ちうるとは考えられない。  むしろ、そのくらいの大恋愛ならしてみたいとさえ憧れる。  若林由紀子は一体、どんな経験をしたというのだろう?
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