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「あなたたち、知ってる?」
ひと呼吸おくと、若林由紀子が切り出した。
「本当に大切な恋っていうのは、生涯忘れられないものなの……それが悲しい結末に終わった場合は特にね……」
若林由紀子が寂しげな微笑をうかべて、息をつく。
胸の中にいまだうずまくためらいを全て吐き出すかのように。
「時がたてば失恋の傷は癒えるってよくいうでしょう? 確かにそれはまったく嘘ってわけじゃない。でも体にできる傷跡と同じでね、深く刻まれると幾らか薄れはしても、一生消えない。一年経っても十年経っても、それこそ五十年経ってもね」
「五十年経っても?」
「そうよ。私も知らなかったわ。そんなことがあるなんて」
――五十年後、僕は六十五歳だ。
自分がどんな風になっているのか想像もつかない。そんな歳になるまで今感じた思いを、ずっと抱えて生きるってこと?
そんなことがありえるとは、雛太はにわかには信じがたい。
さほど面白くもおかしくもない、平凡としか言いようのないありふれた日々が、それほどの重みを持ちうるとは考えられない。
むしろ、そのくらいの大恋愛ならしてみたいとさえ憧れる。
若林由紀子は一体、どんな経験をしたというのだろう?
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