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「えー、ウェイターなんてやったことないし。めんどくさいよ。今日はお茶飲んでまったりするつもりで来たんだよ?」
「心配するな。客が来なければ、基本的にお前がやらなきゃいけないことはない」
「でも来たら、オーダーとったりするんでしょう?」
「そうか。やる気がないなら仕方ない。せっかくバイト代をはずんでやろうと思ったのに」
迷った挙句にやはり訊かずにはいられない懐具合が恨めしい。
「うーん、一応訊くけど、どのくらいはずんでくれるの?」
「そうだな。当店イチオシのロイヤルホットケーキ&ミルクティーセットの無料提供でどうだ?」
「えー、バイト代ってそういうこと?」
「どうせ金やっても食い物に換わるだけだろ?」
「失礼な。もっと文化的なことにも使います」
「じゃ、やらないでいいんだな?」
「そんなの、やるに決まってる」
雛太はきっぱり言うと、テーブル席で話し込んでいるカップルに目をやった。
女性の方が生クリームと苺、それからラズベリージャムで飾られたホットケーキを食べている。あの品には先ほどから目をつけていた。
生地には蜂蜜もかかっており、その表面がオレンジ色の照明を浴びて、ぬらぬらと黄金色に輝いている。
それを女性は、喜びに満ちた表情で口の中へと次々放り込んでいく。見ているだけで思わず生唾がこみあげる。
普通に注文したら千四百円もするセットをタダで飲み食いできるのは経済的自由の少ない高校生にとってバカにはできない報酬だ。
「それとも何か不満でも?」
「滅相もない」
ならよろしいと言わんばかりに雛太は瞳瑠先輩にうなずいた。
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