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「ご注文のカモミールティーでございます」
雛太は緊張しながら若林由紀子にお茶の入ったティーカップを提供する。
「どうも、ありがとう」
若林由紀子は目を細めて礼を言うと、両手を使ってひと口飲んだ。
「とても美味しい」
窓から差しこむ午後の柔らかな日差しの中で微笑した。見ているだけでほっとするような満足そうな表情だ。微笑みの貴婦人、というあだ名を雛太は反射的に思いついてしまう。
「それでは早速お預かりしていたレースドールについてですが」
瞳瑠先輩がカウンターの上に慎重な手つきで据え置いた。
歌う貴婦人をかたどった磁器人形だ。
硬質で混じり気のない、つるりとした質感の人形がレースのドレスを着飾っている。
その足元には円形の台座が付いている。その為、簡単に倒れてしまうようなことは無いだろう。その台座自体がネジ巻きになっているようだ。オルゴールなどの装置が内部に仕込まれているのかもしれない。
「ごめんなさいね。そんな扱いの厄介な物を」
「いえ。輸送中に新たに壊れてしまった箇所は無いと思いますが、念のため、状態の確認をお願いします」
磁器とおぼしき人形の大きさはウィスキーのボトル程。
謳う貴婦人が身を包んでいるドレスは淡いピンク色のロココ調。
磁器製の彼女は片手を胸の前に、もう片方の手の平を優雅に一天へ向けている。うら若き女性の歌っている姿が造形されているのだろう。
そしてどこか懐かしさを感じさせる顔立ちは、印象派の絵画に描かれたお姫様を思わせた。
若林由紀子は、人形を回してよく確かめつつも、
「特に問題はないように見えるけど……」
つぶやく口調もおっとりしていて、それだけで雛太は心が和んでしまう。
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