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改めて人形に目をやった。
ドレスの上半身は肩先が隠れるフレンチスリーブで、慎みを感じさせるスタイルだ。
下半身は一般にティアードスカートと呼ばれる形で、フリルが上から五層に亘る折り重なりをみせている。
「すごい綺麗ですね。特にこのドレス、こんな小さいのによく縫ってある」
思わずそんな言葉がもれたとき、はたと気がついた。
ドレスのレースのようなスカートの縁どりが欠けている。まるで割れて破損したかのように。
いや、違う。
「これ、もしかしてドレスも全部、磁器で出来てるの?」
「勿論だ」
「えー、本当に? こんなに目が細かいのに?」
すると瞳瑠先輩は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情だ。
「まるで本物のレースみたいに見えるだろう? それがレースドールとも呼ばれる由縁さ」
波打ちながら外側へ大きく広がったスカート生地は編み目状になっている。思わず本物のレースかと見まがうほどに精緻な造形だ。
もし縁の一部が破損していなかったら、それが硬質な磁器とは判断できなかったことだろう。それくらい布地の柔らかさと織り目の細かさが見事に表現された焼き物だった。
それだけに破損しやすそうなことは、ぱっと見にも明らかだ。
「破損個所は、このスカートの縁の部分だけでお間違いないですね?」
「ええ。間違いないわ」
若林由紀子は磁器製の貴婦人をよく点検しながら瞳瑠先輩に答える。
「取扱いには注意してたんだけど、もう歳だからかしらね。手元が狂って、机の角にぶつけてしまって……」
「レースドールは、とても繊細ですからね。これまでも同様の修理を承ったことはありますが、必ずしも元通りに修復できるものばかりではありません」
「あら、やっぱりそうなのね」
「時には修理を諦めて頂かなくてはならない場合も」
「とすると、このお人形も元通りに直すのは難しい?」
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