第三話【オルゴール付きレースドールの歌姫】

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「残念ながら、修理の痕がまったく分からないようにとなると難しいでしょう。ただ不幸中の幸いで、破損前の写真が残っているのと、折れ取れたパーツも保管しておいて頂けたので、ある程度の復元は可能かと」 「充分よ、それで。人生にはあるもの。長く生きていれば、もうどうしようもなく直せないものっていうのはいくらでも」  気になる物言いだった。だからといって気安く尋ねていい類の話でもないだろう。 「一点確認なんですが」  瞳瑠先輩が人形の台座を手に取った。 「見たところ、この台座部分には」  横向きにすると、裏蓋が見えた。 「オルゴールの機構が内蔵されているようです」 「ええ、そうよ」 「鳴らしてみても?」 「勿論」  そのとき、なぜだろう。若林由紀子の表情が、わずかに変化するのが見てとれた。
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