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朝早くに目覚めると、彼女は既に家にいなかった。 夜の間に出て行ったらしい、支度の早いヤツだ。 たぶんあの男の家に行ったのだろう、 そしてたぶん夜通しズコパコやっていたのだろう。 俺がすやすやと眠っていた後に、彼女はズコパコやっていたわけである。 俺が労働にいそしんでいたときでも、彼女はズコパコやっていたわけである。 なんだか、本当に同じ時間をすごしていたのか、実は別の世界線の出来事ではないのか、 今居るこの世界は、本当に自分の生きてきた世界なのか、 我ながら不安になってくる。 朝のリビングに行くと、 料理を作る彼女は居なく、朝の支度をする彼女も居なく、 テーブルには鍵と手紙が置いてあった。 『ごめんなさい、実は私、今まで……』 俺は嫌になって手紙を裏返した。 が、裏にも几帳面な文字でびっしりメッセージが書いてあるではないか。 「糞野郎」 俺は呟いて、立ち上がった。 パジャマのままベランダに出て、昨日の残りのタバコを3本吸う。 歯を磨いて、朝ごはんを食べるべく、俺は台所に向かった。 シンクの隅の、ゴミがたまっている三角コーナーをちら、っと見て、 彼女の手紙も捨て、そして、まだ半分以上残っているたばこケースを握りつぶして三角コーナーに突っ込んだ。 俺はもう、タバコは吸わないだろう。 <了>
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