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俺が住んでいるアパートの部屋には、部屋が2つある。
1つは、リビング兼台所の、パソコンとベランダのある、大きな部屋。
もう1つは、寝室。
こちらには電子機器の気配といえば読書灯しかなく、
あとは壁の1面を本棚が支配している。
俺は寝室兼読書部屋で、天井を眺めていた。
今日はもう、あとは寝るだけなのだ。
俺は部屋の電気を消して、寝ることにした。
彼女は、この部屋にはやってこない。
彼女は、リビングのほうに布団をしいていつも寝ていた。
俺は真っ暗になった寝室の中で、暗闇に目を走らせた。
最近、彼女は休日にも帰りが遅いことが多々ある。
俺が日曜日、仕事から帰ってきた、その後に彼女帰ってくることが、何回かあった。
俺は暗闇の中で瞬きをした。
数ヶ月前のことを思い出す。
その日俺は、細かいことがきになる日だったのだろう。
仕事帰ってきた俺は、インスタントコーヒーを淹れようと思い立った。
俺用のマグカップを出してコーヒーの粉末を淹れたときに、どうにもコップのフチに粉が張り付く。
どうやら、俺のマグカップを使ったような形跡があるのだ。
俺は、丁度テレビのCM中で暇そうだった彼女に声をかけた。
ねえ、俺のコップ使った?
と。
一瞬の間があった。
一瞬の間。ほんの、一瞬の間。
ごめん、間違えて使っちゃったんだ。
彼女が答えた。
そっか、と俺は返答し、湯をコップの中に注いだ。
俺は、ベッドの中でその「一瞬の間」の意味をとても考えていた。
俺の意識は、徐々に眠りの世界へと落ちていた。
最近、仕事から帰ると、部屋が綺麗に掃除されていること。
ゴミ箱なんか、まだまだ余裕があったのに、変える度にすぐに彼女が縛って捨ててしまうこと。
最近、俺がリビングに入るたびに、スマホをいじっている彼女がハッとこちらを見ること。
掃除のためにスマホを動かしたら、烈火のごとく怒らせてしまったこと。
休日は、おしゃれをして出かけ、遅くまで帰ってこないということ。
彼女から一瞬した、タバコのにおい。
柿をむくときには、長かった爪。
やけに増えているスマホの時間。
週末のたびに掃除されている部屋。
俺は目をつぶる。
意識を手放す前に、ひらがな3文字が頭に浮かんだ。
「うわき」
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