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■2
次の日、俺はハッタリをかけることにした。
気のせいだと願いつつ。
出勤のときに早めに家を出て、忘れ物をした、と時間をかけて家に戻る。
簡単である。
月曜日の朝。
俺はスマホを充電器に刺したまま、仕事に出勤するために、家を出た。
その月曜日は、彼女も仕事のはずだった。
いつも俺が先に家を出て、あとに彼女が家を出ていた。
じゃあ、いってきます。
俺は彼女に挨拶をして、彼女に見送られて、家を出る。
共用の駐車場に行き、車にキーをさし、運転し、
近場のコンビニに行き、缶ジュースを1本買うと、
家に引き返した。
インターホンもならさず、いきなり鍵を開けてはいる。
彼女の靴はそこにあった。
俺は、何も言わずにリビングに入った。
はたして、彼女はそこにいた。
彼女は、髪をとかしている途中だった。
明らかにこちらを見て固まっている。
やってはいけないことをやったときの、子供のような。
いたずらが見つかった、猫のような、表情。
俺は、あらかじめ用意しておいた言葉を言った。
あ、ごめん。まだいたんだ。
今日仕事休みだったんだね。
彼女は、しばらく固まったあと、
う、うん、そうなの、ごめん、黙ってて、今日休みなんだ、
と息をつくように、途切れ途切れに言葉を吐いた。
ごめん、家にまだ居るとは思わなくて、
忘れ物しちゃって、ほら、スマホ、充電器に指しっぱなし。
あはは、ドジだなぁ、
じゃあ、いってきます、
はい、今度こそ行ってらっしゃい。
俺は家を出て、もう1度車の運転席に座った。
ミラーの位置を直し、出発の準備をして、
頭痛を感じたように目を閉じる。
デート用にめかしこみ、ヘアをセットしている彼女が、
瞼の裏に現れる。
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