傘の向こう側

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午後の部の講習会は黒髪女子の笑顔が頭から離れず、ちょっと身に入らなかった。 帰り支度をして、講習会場を出た。 自宅から講習会場まではそこの社員と客以外の車の使用は禁止されているためバスで通勤。 バス時間まで少し時間があるのでコンビニに寄ると、駐車場に見たことのあるスポーツカー。 ワインレッド色をしたそれは、確か90年代に売り出された車だ。 4ドアセダンにリアスポイラーを付けて、扁平率の高い薄いタイヤにはアルミホイールが嵌めてある。 確か、カー用品店に勤めていた時に何度か見掛けたことがある車だ。 その車を横目にコンビニに入り、ビールを選び、つまみになりそうな物をと思って菓子コーナーに移動した。 するとそこに昼間カレー屋で挨拶した黒髪女子が居た。 午後の講習の間ずっと笑顔が目に焼き付いていた彼女が目の前に。 彼女は中腰になり、スナック菓子ばかりをカゴに入れていく。 考える間は無かった。 「昼間はどうも、カレー屋で……」 腕を伸ばし、トントンと肩を叩き声を掛けていた。 振り向いた彼女は、目をまん丸くして思いきり驚いた顔。 「あ、こ、こんにちは。に、二岡くっ、あ、えっと……二岡さんっ」 そして噛み噛み。 彼女は思っていたよりかなり小柄で、俺を仰ぐように向ける顔は瞳が大きくて何だか小動物のようだ。
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