そこに勇者はいなかった

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勇者はその魔物の家から少し離れたところで膝を抱えて座っていた。 魔物を殺すのが当たり前だと思っていた。 しかし、あの魔物は果たして本当に殺すべきだったのか? 魔物が幸せそうに歌っているところが何度も何度も脳裏をよぎる。 魔物は死んだ。自分が殺したから。 でもあの子の娘だけはどうか罪を犯さずに幸せに生きて欲しいものだ。 勇者はそう思う他になかった。 「お!!勇者様じゃないか」 そこにいたのは見知った男だった。 かつて化け物退治に何度か同伴したことがあった。 「さっきよ。そこで魔物が襲いかかってきたから退治してやったよ!!見てくれ」 そういって男は嬉しそうに袋から獲物の首を取り出した。 「あ…あ…」 そこにあったのは…魔物の娘の生首だった。 ショックで何も言えない勇者。 「どうしたよ?」 不思議がる男。 「悪魔とは…悪魔とは…お前たちのことだぁあああ!!!」 勇者はそう叫ぶと、目の前の男を剣で切り裂いた。 男は一瞬、何で?という顔を浮かべながら死への恐怖に怯えながら息絶えた。 少女の生首を拾い、勇者はぎゅっと抱きしめた。 もしも自分がこの子の母親を殺さなければ、この子は人など襲わなかっただろう。 もしも自分がこの子の母親を殺さなければ、この子は幸せに生きることができただろう。 原因は全て自分にあるのだ。 「ごめんな…ごめんな…」 涙をポロポロと流しながら、自分の行いを悔いる勇者。 彼は力なく剣をその場に落とすと、少女の首を抱いたまま森の奥深くに姿を消した。 それ以来、勇者を見た者はいなかった。
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