そこに勇者はいなかった

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魔物は洞窟を出て、近場の一軒のボロい木造の家へと連れてきた。 ドアを開ける。 蝶番(ちょうつがい)には脂が差さってないのか、開けるときに キィイイと甲高い音が鳴り響く。 「ママ!!おかえりなさい!!!」 そこには魔物とよく似た小さな女の子がいた。 魔物とは違って人間のような足がついており、まるで人間のような姿をしている。 少女は小さい体をドタバタと勢いよく動かし、母親の方に向かってきた。 「あれ?その人お客さん?」 勇者を見て不思議そうに首をかしげる少女。 「そう。すぐにご飯を作るから待っててね」 魔物はそういうとキッチンに向かい、歌を歌いながら調理を始めた。 勇者はその姿を居心地悪そうにただ見つめている。 時折、少女が不思議そうに勇者を見つめてはニッと微笑みかける。 その視線がなんとなく居心地が悪くて、見つめられるたびに勇者は視線を逸らした。 「できたわ」 そういって、魔物は料理を三人分持ってきた。 「どうぞ」 勇者の前に差し出されたそれは料理と呼ぶには余りにもひどい見た目だった。 色が紫でそこにぶよぶよした物が浮いているのだ。 「これはさっきの洞窟の表面に生えていたコケを削り取ってスープにしたものよ。 美味しくはないけど、食べてください」 勇者は震える手を無理やり抑えつつそれを口にした。 苦くて、ドロドロとしていて、飲み込もうとしても(のど)の奥に張り付き、 到底たべれるような代物ではなかった。 「ゴホッゴホッ」 美味しそうに食べている少女が勇者の姿に再び首をかしげた。
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