そこに勇者はいなかった

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食事が終わる。少女は満腹で見るからに幸せそうだった。 「私はこの人と話があるから、ちょっと遊びにいってらっしゃい」 そう言って、魔物は少女を外へと追い出した。 「ふふ…ついにきてしまったものね。このときが…」 魔物が悲しそうな顔をする。 「勇者様…私ね。人を食べるのが大好きだったんですよ」 魔物の告白を勇者は黙って聞く。 「人を食べたときの味、食感、全て覚えているわ。 今でも目を閉じるとありありとあの美味しさが目に浮かんでくる。 寝るたびにいつもまた人を食べたいってすごく思うの 」 剣を握る勇者。 「そう…だから私は殺されなければいけないの。 たくさんの人を殺して、たくさんの命を奪ったのだから。 でも…あの子は違う。あの子は生まれてこのかた、人間を食べたことなどない。 だから、せめてあの子だけは助けてあげて… 」 悲痛な叫び声だった。 勇者はその最後の嘆願に首を縦にふる。 「さぁ…勇者様私を殺して…」 そう、目の前にいるこの魔物はたくさんの人を殺したのだ。 だから殺さなければいけないのだ。 そう自分に言い聞かせて、勇者は震える手で剣を握り、その魔物を斬り殺した。 あたり一面に紫色の血が広がる。 勇者は息が途絶えたのを確認して、家から出た。 しばらくして少女が帰ってきて、目を点にさせる。 「まま!!!?どうしたの!?まま…まま…ままぁああああああ」 少女の慟哭(どうこく)が勇者の耳に聞こえたような気がした。
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