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海とまどか
嘘なんてついても幸せにはなれない。
まだ純粋だったあの頃、私は心の底から、そう信じていた。
午前7時。
夏が近づくこの季節、もう外は明るくなり始めている。けれど、まだ空気は冷たい。
私、春野海(はるの うみ)は自室のカーテンと窓を開け、大きく背伸びをする。
胸一杯に吸い込んだ空気が気持ちいい。
今日もいい天気だ。
「まどかー、今日は調子はどう?」
目の前には私の家と向き合う形で立つ一軒家。我が家のこじんまりとした作りとは違い、歴史を感じさせる堂々とした佇まい。その一角が、私の幼なじみ、重 まどか(かさね まどか)の部屋だ。
からから。
私の声より前に目覚めてはいたのだろう。
私が呼び掛けると、すぐに窓が開いた。
真っ黒なストレートの長い髪に、くっきりとした目鼻立ち。真っ白な肌に、小さな口元。小柄な体は、朝の澄んだ空気の溶け込んでしまいそうにほっそりと立っていた。
「おはよう、海ちゃん。
うん、今日はだいぶ良さそう。」
「じゃあ、今日は迎えに行くから、30分後にね。」
私はそう言って、窓を閉め、自分の身支度をさっと済ませ、食卓へと下りていった。
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