八十万人の諭吉

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「それは分かっています。ですけど私は山に明るくありません。深山さんもそうでしょう。ですので私は山の事について調べた方が良いのではと思ったのです」  綿貫の言ったことを飲み込み少し考えてから 「高山植物について調べるとかか?」といった。 「それも良いですけど、まずは山に入る上での注意点や、必要な装備について学ぶのが先決かと思われます。ちょうど顧問の飯沼先生にこのような本を貸してもらっていたんです」  そういって綿貫は「山の歩き方」という本を差し出した。そこには登山するときの心構えと装備一式についての説明が記述されていた。 「私はもう読み終わったので深山さんも読んでみてください。飯沼先生は部室に置いておいて良いとおっしゃったので読み終えたら部室に置いておいてください」 「わかった」  俺は綿貫か受け取った本を鞄にしまい、文庫本の続きを読もうとする。  だが、綿貫の話はまだ終わっていなかったようだ。 「ところで」 「何だ」  ぶっきらぼうに答える。 「まだ登山靴は買われてないですよね。今度よかったら山本さんと一緒に三人でお買い物にいきませんか」  俺はぱたんと本を閉じて綿貫のほうを見た。  登山靴か。決して安いものではないだろう。一万円は下らないな。どうしても買わなくてはいけないものなのだろうか。     
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