八十万人の諭吉

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 だがしかし、そういう俺も一人の人間で、理性と本能が一致しないのが人の常である。セーラー服を着た女子に魅力は感じない。しかし制服のスカートから(のぞ)く肉付きの良い女子高生の太ももは眩しい。健全な男子高校生の目には毒である。男女共に制服がズボンになれば目のやり場に困るということもなく平穏に暮らせるのに。  ……一向に制服革命の動きは見られない。この旧態依然とした状況を見るに、日本人の半分が「変態」という評価は案外当たっているのかもしれない。  そんなことより、と雄清が話題を変える。 「太郎、身の振り方は決まったのかい」  身の振り方?俺はまだ十六にもなっていないぞ。俺が訝しがるような顔をして、雄清のことを見ていると、 「部活の事だよ。まあ、聞くまでもないか。どうせ何もやらないんだろう」と雄清は言った。 「いや山岳部に入る」 「山岳部!あの太郎が!」 いちいちオーバーリアクションな男だ。そんな驚くことか。 「いつもしんどいことは避けて、楽にゆるりと生きてきた太郎が山岳部なんて!どういう風の吹き回しだい」  随分な言い種である。  確かに俺が今まで活発的でなかったのは否定できないが、別に俺は高校デビューする気はない。 「いや体を鍛えておくのは今のうちしかないからな。年取った後、寝たきりになるのはごめんだ。だから部活に入ることにした」  自分でも少し可笑しく思うほどの達観ぶりだが、こういう風に育ってしまったものを今更どうこうは出来ない。 「なるほど、太郎らしい理由だなあ」     
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