37人が本棚に入れています
本棚に追加
この高校では部活は自由参加なのだが、俺は体を鍛えるために山岳部に入ることにしたのだ。山を登ったことはないし、今まで関心を寄せたこともなかった。だからといって別に登山をなめているわけではない。ただ先輩後輩の面倒な関係に振り回されるのが嫌なだけだ。その可能性のないこの部活は、俺にお誂え向きの部活だったのだ。
山岳部の部室は部活棟の最上階、四階にある。学校の敷地でも最果て。明らかな冷遇だが、校舎四階分の階段を上るくらいで文句を垂れていては山岳部員としてやっていけないだろう。賑やかな一二階を過ぎると三階から既にひっそりとしている。四階に上がり、がらんとした他の部室を横目に山岳部の部室に到着した。
部室の前に立ち、しまったと思った。鍵を持ってくるのを忘れていたのだ。開いていればいいがと思ってドアに手をかける。ノブが回った。
開いているのにほっとしたと同時に俺はびくりとした。中に黒髪の女生徒がいたのだ。俺は一瞬部屋を間違えたのかと思った。だが確かに山岳部と書いてあった。この女生徒は新入部員だろうか。こちらを振り向く。俺ははっと息を飲んだ。
艶やかな黒髪に潤んだ大きな瞳、長い睫毛に鼻筋が通った色の白い顔。その娘の周りには白いぼんやりとした光すら見えるような気がした。今まで会ったどんな女の人より美しかった。
その美少女が言う、
「あなたも入部希望者ですか。私は綿貫さやかと言います。一年C組です。お名前は?」
「深山太郎、一年B組」
俺は恍惚として答えた。
最初のコメントを投稿しよう!