八十万人の諭吉

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「ミヤマさんですか。B組ならお隣ですね。ちなみに、ミヤマというのは美しい山と書くのですか、それとも()やまですかそれとも三つの山ですか」 「クワガタと同じだ」 「深い山ですね」  俺は少し驚いた。なぜならこのヒントでわかった奴は初めてだったからだ。 「これからよろしくお願いしますね」  綿貫さやかはそう言って、頭を下げる。  俺はどうしようかと思った。他の男ならこのような美人がそばにいるのなら喜んで入部するだろう。  だが俺が山岳部に求めたのは安寧(あんねい)だ。この女と一緒にいると俺の平穏な日々が壊される、そんな予感がした。 「まだ入るか決めていない」  少し、正気を取り戻して、俺はそういった。 「私はもう入部届も出しちゃいました。深山さんも入ってくれるなら嬉しいです」  これは手強い。このような美少女こんなことを言われてしまうとさすがの俺でも心が揺らぐ。変な気を起こさない内に、ここはさっさとずらかろう。 「今日はもう帰るよ」 「そうですか……また来てくださいね」  彼女はややがっかりしたように見えた。  引き戸に向かうと雄清がこっそり外から覗いていた。雄清が俺の肩に手を回し、 「どうしたんだ、太郎。まだ来たばかりだろう」  どうしたは俺の台詞だ。お前はここで何をしているんだ、というのをこらえて、 「入るのをやめようと思う」と俺は言った。     
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