八十万人の諭吉

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「何のことを言っているかは大体わかります。山本さんの質問に答えるならはい、と言うしかないですね」  綿貫は困ったような顔をしたが、そう雄清に言った。  こいつ何者だろうか。 「太郎、綿貫だよ、綿貫!」  飛んでくる来る唾を避けて、 「寿司職人か何かか」と俺は言った。 「違うよ!」  だから何故そう興奮するのだ。  俺は分からなかったからボケただけなのに、大声で怒鳴るこたないだろう。  綿貫とは誰か俺は知らない。  考えあぐねて黙っていると、雄清がやれやれと言いたげな様子で答えを言った。 「大海原(おおうなばら)病院の経営者一族だよ」  へー 「大海原なら知っている」  大海原病院は日本で一、二を争う総合病院だ。うちの街にもでかい病院が鎮座(ちんざ)している。  全国に関連病院があるそこの経営者の娘ならば、この綿貫さやかは深窓(しんそう)のお嬢様じゃないか。 「大海原で綿貫が腸抜く仕事か」  少々下品だったか? 「ウフフ、深山さんって面白いですね」  おっ、俺の洒落が通じた。ちょっぴり感動。 「山本さんも入部希望者ですか」  雄清という闖入者(ちんにゅうしゃ)に戸惑っていた綿貫も、少し打ち解けたようだった。 「うーん、僕は委員会の仕事があるからなあ。でも普段見られない太郎が見られるのは面白そうだ。うん入るよ」     
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