八十万人の諭吉

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 こいつの無鉄砲さには呆れる。雄清は山を登るということを理解しているのだろうか。そして普段見られない俺とは。  俺は女が、例え美女が隣にいたとしても変わる俺ではない。そもそも俺はまだ入ると決めてもいない。  綿貫は少しきょとんとしていたが 「よかったです」と言って嬉しそうだ。 「太郎も入るんだろう。もう入部届も書いてあるんだし」  こいつ余計なことを。  それを聞いた綿貫は「そうだったんですか。私が代わりに出しておきますよ」と言って手を出す。  ああ、この女の目は魔眼なのだろうか。俺はポケットにいれていた入部届を何か得体の知れぬものに引っ張られるようにして綿貫に渡してしまった。 「確かに受けとりました」 そしてにこりとする。    先輩がいないのだ。当然部活動のガイダンスなど誰にもしてもらえない。仕方がないので今日は帰ることにした。  校門まで三人で行った。夕日に照らされ、多くの神高生が帰宅する中、部長を誰にするのかという話になった。 「僕は委員会があるからなあ、よしとくよ」 「そうですか、深山さんはどうですか」 「俺は……」 「太郎には無理だよ、それに似合わない」  何か腹が立つのだが。  雄清が続ける。「綿貫さんでいいんじゃないかな。そんなに大変じゃないだろうし、みんなでサポートするからさ」     
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