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「そうですね、わかりました。私が引き受けます」
綿貫と俺たちとでは家の方向が逆だ。綿貫は自転車に股がり逆方向に向かう。
「では」綿貫はぺこりとお辞儀をする。
「バイバイ」
「ん」
夕日を背に受け自転車を漕ぐ綿貫を見送る。
「良い子じゃないか、綿貫さん」そんな彼女を見て雄清はそういった。
まあ、それはよくわかった。あくまで第一印象だが。
「そうだな、金持ちには嫌な奴が多いと思っていたんだがな」
温室育ちの、坊ちゃん嬢ちゃん。甘ったれた嫌な奴、というのは定説だろう。雑草魂なめんなよ。
「それも偏見だよ、太郎」
そういう雄清の口調は非難というほどきつくはなかった。
「そうか」
「そうだよ」
暮れる春の空の下、からすが阿呆と鳴いている。
少々予定とは違っていたが、俺の高校生活が動き出す。
俺は雄清に「女はうるさい」と言ったが女、特に綿貫に対するその評価は訂正せざるを得なかった。
綿貫は決してうるさい女などではなかった。もちろん陰気であった訳でもない。淑やかでただひたすらに礼儀正しいのである。つまり金持ちは性格が悪いという考えもこいつに関しては間違っていたのだ。
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