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「雨は好きだ」
金魚鉢の金魚が言った。
「水の中にいるのに……しかも、屋内の金魚鉢にいても、そんなことを思うかい?」
「だからこそさ。金魚鉢の中にいても、こんな大雨の日には雨音が聞こえるんだよ。雨の音を聞くと、ああ、世界の水は流れているんだな、と思うよ」
「世界の水か、たいそうなことを言うもんだね、金魚が」
「世界の水は流れていく……安心するんだ、ここの水はいっこうに流れて行こうとしないからね、世界中の水が止まってしまったんじゃないかって心配になるよ」
「そんなの関係ないじゃないか、流れていかない水の中にいたら、世界中の水がどうなっていようと、なんにも変わらない」
「ああ、安心したよ」
「何をだい?」
「同じように、流れのない中で生きているアンタより、どうやら、金魚の方がまだましだって、わかったからね」
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