3話:ネオンカラーの部屋

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 梗慈が当番で俺だけ休みな当日、俺は少しづつ荷造りしていた荷物を梗慈の部屋に運び込んだ。  さすがに三往復もすれば疲れたのと飽きたのと、残りの物が一人では運ぶのがきついのとで、作業を諦めて、運び込んだ荷物の整理をする。  もし時間があればあの時言った通り、梗慈に甘い甘いケーキを作ろうと画策していたからか、思いのほか整理は早く済み、現在その甘い甘いケーキを作成中である。とはいってもクリスマスの新作ケーキをいくつか考えたいのも相俟って、試作品を兼ねている。  ただ、梗慈が食べるのは早くて次の日の昼前。すぐに感想を聞けないのは残念だ。  日付が変わる頃に仕上げたケーキを冷蔵庫に放り込み、これで一応は“当日中にお食べ下さい”に当てはまっているとこじつけ、俺は寝ることにした。  やはり梗慈からは何の連絡もなかった。何事もなければそんなにたいして忙しくはないだろうけど、一人になれることも極端に少ないだろう。  もしかしたら、常に誰かしらがそばにいるかもしれないので、少し残念に思いながらも冷蔵庫の扉にメモを貼っておく。  次の日、俺は欠伸を噛み殺しながら部屋を後にした。梗慈の部屋の鍵がまだ手に馴染まず、特別な感じがする。  結果から言うと、一緒の所に住んでもすれ違い生活だった。  何となく梗慈の気配を感じるものの、朝の早い俺は梗慈の帰ってくることの多い時間帯、深夜には寝ている。早朝動き出す俺をやはり感じているような梗慈は、寝付いたばかりだ。  ただ、言葉もなく互いの気配と寝ている姿を見るだけであっても気持ちが違う。  俺は俺でああ、今日も無事だったんだと思うわけで、梗慈はあの試作品ケーキの後から何かを作って冷蔵庫に入れておくと、割に遠慮のない感想をメモにして冷蔵庫に貼ってくれる。
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