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人から見れば決して付き合ってるとも、幸せとも言わないだろうけれど、俺はかなり幸せを感じていた。
それでもクリスマス最終日ともなると、体力限界ギリギリで、半分倒れかけているような状態で梗慈の部屋へ帰る。
やりきった感は半端ないが、所詮他人の為。どこか遣る瀬無さを感じるのは自分も恋人を持つ身になったからなのか……
もしも売れ残りのケーキがあれば買って帰ろうと密かに企んでいたのだが、残念ながら全て完売。
今更ケーキを作る気力もなし。パティシエなのにケーキのないクリスマスなんてと少々がっくり。まあ、そんなものだろう。
がちゃがちゃと鍵を開け、がっくりしたままドアを入ると、部屋中に広がるネオンカラーの光の海。キラキラ光り点滅しどこか忙しなくも幻想的だ。
「おかえり、琉生」
ぽかんとその様を見ていた俺の間抜けな顔に、にやりと笑った梗慈が言った。
「え、あ、ただいま……」
「結構綺麗だろ」
「うん」
「いっつも分厚いカーテンで極力光を遮ってるからな。 今日は逆の発想。 なんか部屋中がクリスマスツリーみたいじゃね?」
「ああ……綺麗だな」
珍しく素な梗慈の笑顔に俺は思わず見惚れた。キラキラする部屋の中で一番キラキラしている、と思う俺は大概イタイ。
「おまえがケーキ持って帰ってきたら悪いなと思ってたんやけど、一応」
テーブルには俺が作った新作のクリスマスケーキ、因みに甘さ控えめ大人のビュッシュ・ド・ノエル、とシャンパングラスにシャンパン。
そしてどう見てもその辺で買ってきた酒のあて系惣菜。この場合の酒は日本酒だ。刺身やたこわさとシャンパンの相性ってどうなんやと本気で笑いそうになった。
「梗慈……お前のセンスめちゃ笑う。 ……ありがとう」
半分爆笑して声が震えていたが、残りの半分は冗談抜きで感動した。それを悟られない様にと思ったが
「おう」
と照れくさそうにぶっきらぼうに言う梗慈に、抱きつきたくなった。
一緒に暮らし始めてようやく気配と寝顔以外を見た日、俺は心底幸せだと感じていた。
終
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