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僕は口を噤み俯く。梗慈も同じように黙ってしまったので、沈黙が流れる。
「琉生、おまえずっとこっちに寄りつかんかったな」
「……忙しかったから……」
「……そうか……」
「梗慈、ここは……全然変わらんな」
「そやな。あの頃のままや」
梗慈が無神経にあの頃のなんて言うから、僕はいつの間にか引き出しの奥深くにしまいこんだ古い記憶を引っ張り出してきた。
僕と梗慈は、幼なじみだ。
最も、この辺は海ばかりが綺麗で、夏になれば賑やかにはなるが、普段は閑散としていて、大抵の奴が幼なじみなんて状況だ。
梗慈は地元で1、2を争うやんちゃぶりで、今でこそ黒髪の短髪なんてシンプルで爽やかな頭してるけど、当時は金髪でその前髪鬱陶しくないんか? ってくらいに髪も長かった。それがまたよく似合っていて、そう、かっこよかった。
それに比べて僕はというと……カワイイ系でありながら、実はその1、2を争うやんちゃぶり発揮していた片割れで、だから梗慈ともよくつるんでたし仲もよかった。
そんな風に悪ぶってはいたけれど、その頃はまだ子どもらしい純情さも持ち合わせていたわけで、僕はいつの頃か梗慈に恋をして、梗慈の言動に一喜一憂していた。そして僕らはなんとなく付き合うことになって、だけど全然何にも変わらなかった。
梗慈が別の子とも付き合ってるって知ったのは、中3のそろそろ進路の決まり出す頃。ムカついて、腹が立って、悔しくて悲しくて、僕は梗慈の浮気相手を見に行った。
もちろん一発くらいは殴るつもりで。
物陰からコソッと見たその彼は、僕とはまるで正反対。いつも顔を赤らめておたおたして、すごく真面目な年下の子やった。
その時僕は、自分が浮気なんだって悟った。すごく梗慈が幸せそうに笑っていたから。
「琉生」
「ん?」
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