1話:コバルトブルーの街

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「あの時は悪かった」 「……なに、今更。終わったことや……」 「ずっと気になってたんや。おまえは卒業と同時に何も言わんで消えてしまったし」 「……」 「同じ高校に行こうって約束してたのにな、裏切ってしもて悪かった」 「裏切ったんは、梗慈と違う」 「おまえに裏切らせるようなマネさせたんは俺や」 「……もう、いいやん。それよりあの時の彼は今どうしてんの?」 「あいつは、亡くなった」 「は?」 「亡くなってしまったんや」 「なんで?」 「あいつ、心臓病で、こっちに療養にきてたんや」 「……そっか……」 「琉生。俺はおまえに甘えとったわ」  僕はよくわからなくて、首を傾げる。 「あいつに好きやって言われて、半分同情、半分浮かれて付き合ってしまった。俺はおまえには後で言ったらいいわって思ってた。おまえにバレて、おまえが身を引くようにおらんようになって、俺はおまえのことが一番大事やったことに気がついた。あいつのこと放り出して、おまえのこと探して、結局見つけることができなくて。で、ふとあいつのこと思い出した時、あいつは病気悪化して死んでしまっててん。俺が中途半端(はんぱ)なことしたから、おまえもあいつも傷つけてしまったんや」  梗慈は一気に言うと俯いて、絞り出すような声で 「ほんまに悪かった」 と、呟いた。  僕は、ずっと梗慈が忘れられなくて、だから絶対にこの町には帰ってこなかったのに……  いい加減、けじめつけようって漠然と思ってここに来たのに……  僕の心はぐらぐらと動いた。 「ずるいな、梗慈」 「琉生?」 「おまえに会ってしまって、結局自分の気持ち再確認なんてシャレにもならんわ」  一つ、ため息ついて 「梗慈、スィートハウス『antique』、そこにおるから」  梗慈のびっくりした顔は、昔と全然変わらない。僕はベンチから立ち上がり、自転車に跨ると 「俺の気持ちが知りたかったら、そこに俺の新作食べに来て」 と、叫んだ。  あの頃、僕は俺って言ってたのを不意に思い出して口にした。梗慈はふっと笑って 「わかった。近いうちに行く」 と、タバコに火をつけた。  梗慈、待ってる。僕はまだおまえが好きだから。だけど口にするのはお預け。  僕は坂道を一気に駆け下りた。  来たときと違って見えるコバルトブルーの海に笑みを浮かべながら。                     終
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