2章:オフィスに懐かしいお客さん

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 普段来客があっても、別段機会がなければ見送りなどしないのだが、知り合いに会ったのだ。幸希も席を立って、社内へ出る。  幸希を見て、戸渡はまた嬉しそうな顔をした。 「鳴瀬先輩! お会いできて良かったです」 「びっくりしたけど、私もよ」  会うのが随分久しぶりとはいえ、後輩なのだ。敬語は使わなかった。 「またお邪魔することもあるかもしれないですから、よろしくお願いしますね!」 「はい、こちらこそ」  なんか、ワンコみたい。  思っておかしくなった。  ふわふわの髪と、長身の体躯。  高校時代とは変わってすっかり大人になった彼は、たれ目がちな顔立ちと明るい物言いのために、どこか大型犬のような印象になっていた。 「かわいい先輩に再会できて良かったな。じゃ、失礼します」 「失礼します!」  挨拶をして、戸渡とその上司だか先輩だかは帰っていった。ポーン、とエレベーターが音を立てて、二人は扉に消えていった。 「偶然だなぁ。高校時代の後輩とか、昔、付き合ってたとか?」  店長にからかい半分にだろう、言われたが幸希は「ただの部活の後輩ですよ」と答えたのだった。事実、そのとおりだったので。  しかし驚いた。事前に連絡も取らず、約束もせずに知人に会うことなどそうそうないだろう。  すぐに来客の空気は消え失せて、幸希は仕事に戻った。またキーボードを叩きはじめる。  でもなんだか嬉しかった。高校時代を懐かしく思い出してしまって。
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