2章:オフィスに懐かしいお客さん

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 そんな後輩と出会うなんてねぇ。  その日の夜。仕事を終えて、一人暮らしの自宅でまったり一人酒をしながら幸希は思わず高校時代のアルバムを取り出していた。  酒豪というわけではないが、気が向けばたまに缶チューハイ一本を開けたりする。それは疲れていたり、嫌なことがあったりしたときが多いのだったが、今日はなんとなく良い気分でチューハイの缶を開けた。  アルバムを見たところで、写っているのは同級生が過半数だった。  当時はケータイもそれほど普及しておらず、カメラ付きのケータイなど最新型で、持っている者などほとんどいなかった。ほとんどの者が持っているケータイの画面だってモノクロだったのだ。その後数年でケータイは目覚ましい進化を遂げたのであるが、まぁそれはともかく。  そのために、ケータイに懐かしい写真が残っている、ということもなく。高校時代の想い出を見るのであれば、古風ではあるがやはりアルバムなのであった。  ただ、そのうちの一枚に幸希は、ふと目を留めた。  それは部活で撮った集合写真だった。三年の秋、だったと思う。写真の人物は秋冬の制服、つまりジャケットスタイルであったから。  『当時の部員の想い出に』と集合写真を撮ったことをなんとなく思い出した。そしてその中に、ちゃんと戸渡は居た。  写真のメインは三年生で、彼は当時一年生であったので、はしっこに立っている。  その顔を見ればすぐにわかった。髪は少し長くなったし、染めたのだろう、ダークブラウンになってはいたが、顔立ちはほとんど変わっていない。少し精悍になったとは思うが。たれ目気味の優しい眼をしていた。  しばらくその写真を眺めて、幸希はぐびりとチューハイをひとくち煽った。  グレープフルーツのチューハイ。そのほろ苦さが、幸希を『今』に連れ戻す。  お酒などを、しかも一人で飲むような大人になっているのだ。  十年前。  私はこの子となにを話したろう。  考えたけれど、あまり思い出せなかった。部活の連絡や、単なる雑談しかしなかったのだろう。そのくらいに、彼の印象は希薄だった。
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