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3章:鍵とワンコイン
「あっ! 鳴瀬先輩! こんにちは!」
しかし戸渡には意外とすぐに再会してしまった。
とはいえ、仕事絡みである。「鍵を借りにきました」とやってきたのだ。
幸希の会社が管理している物件の鍵。客に紹介したり、写真を撮ったりするために鍵のやり取りは時々ある。今日の戸渡の用事もそれであった。
「こんにちは。どこの鍵?」
鍵の受け渡し程度であれば、幸希でも扱える仕事。簡単な書類に、名前や会社名、携帯番号などを書いてもらうだけでいいのだから。よって、接客中だった営業の男性はそちらに専念してもらうことにして、幸希が応対した。
「第三ライオンズマンションです」
「ああ、あそこね。綺麗なところよ」
「そうですかぁ。お客さんから写真を撮ってほしいって頼まれまして」
何気ない会話を交わしながら鍵を管理しているボックスを開けて、取り出す。目当ての鍵はちゃんとそこにあった。
「はい。ここに会社名と……」
「はーい」
書類を示すと戸渡は素直に幸希からペンを受け取って、さらさらと会社名やらを書いていく。この仕事では慣れていて当たり前のことなのに、なんだか返事をする声は明るかった。
やっぱりワンコみたい。
内心、くすくすと笑いたくなってしまった幸希だった。
なんだか年の近い男性とこれほどフランクに話せていることが、幸希は不思議だった。
とはいえ、こんなこと、学生時代はよくあったはずなのだ。
高校時代は男子とも普通に会話していた。大学時代もそうだった。
いつのまにか気構えてしまうようになっていたみたい。
もしかして、結婚とかを意識してしまうような年齢になっちゃったから、余計なことを考えちゃってるのかなぁ。こういうのが良くないのかも。
戸渡が鍵を受け取って帰ったあと、幸希はちょっとそう思った。
ただ、戸渡とフランクに話せるのは、高校時代の後輩だから。それは確かなことだった。
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