1章:マイペースでいい?

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 着物は十代の頃から好きで、頻繁には着ないのだがたまに着ることがあった。  夏場、つまり浴衣の季節は着る頻度も多い。祭などが特にない日でも、街中で着ていてもそれほど浮かないためである。  あまり目立つのは好きでなかった。なので友人と連れ立って出かけるときくらいしか着る機会もない。  そしてこの趣味はもちろん、男性とはなんの関わりもない。「着物を見るのが好きなの」と話したこともあったが、大概の場合「へぇ。今度会うときに着てきてよ」くらいの反応で終わってしまう。つまり、恋愛にはなにも役立たないのであった。  幸希が着物に興味を持ったきっかけは、高校時代、茶道部に在籍していたことだ。  それまでは友達同士で行く祭の浴衣くらいしか着たことがなかったが、高校に入学したばかりの頃。部活見学でたまたま覗いた茶道部を素敵だと思った。  きりっと着物を着こなし、お茶をたてる。幸希はどちらかというと、お茶よりも『着物を着てそれをおこなう』ほうに興味を持ってしまったのだったが。  なのでいくらか茶道はたしなんだものの、卒業以来は特にお茶の教室に通おうとも思わなかった。現在は疎遠である。  そして、日々は冒頭のとおり、ルーティンワーク。出勤して、パソコンに向かって打ち込みをして、そして会社の備品のチェックや発注といった雑務もおこなう。  そんな日々では、特に大きな事件も起こらない。平和なのでこれでいいような、なにか行動を起こして現状を打破しなければいけないような。  周りの友人たちを見ると焦りを覚えることもあるのだが、まだまだ結婚に至っていない子も多い。なのでずるずるとそれに甘えてここまできてしまった。結婚に至っていなくても彼氏がいる子が大半なのだし、本当なら焦らなければいけないと、わかっているのだけど。
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