2章:オフィスに懐かしいお客さん

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「こんにちは」  ちりん、とドアベルが鳴って誰かがやってくる。  あら、来客ね。  幸希のいる事務所からは、すぐには入り口が見えない。でも出迎えた営業の社員の会話でどんな人が来たのかはわかる。きたのは同業者のようだ。 「こいつ、今度店舗移動してきたやつです。よろしく」 「戸渡(とわたり)といいます。よろしくお願いします」  冷蔵庫からお茶のボトルを取り出しながら、ん? と幸希は引っかかるものを覚えた。  どこかで聞いたような名前、そして声だ。どこで聞いたのだっけ。  うっすらとした記憶ではわからずに、そのままお茶を淹れて事務所を出て、来客のためのソファのある場所へ向かったのだが。  『彼』を見てやはり引っかかるものがあった。知っている気がする。  ああ、どこで会ったのだろう。  しかし向こうは幸希のことがわかったようだ。ぱっと顔を明るくした。 「鳴瀬先輩じゃないですか!」 「え?」  暗めの茶色の髪は、襟足まであって、やや長め。たれ目の優し気な風貌の青年であった。 「ん? 知り合いか?」  彼の横にいた、上司だか先輩だか……多少上の立場の者であろう男性が不思議そうな声を出した。  彼は「はい!」と元気よく答えて、そして自分を指さした。幸希が「知っているような気がするけど、思い出せない」という顔をしたのがわかったのだろう。  それは人によっては失望するような案件かもしれないのに、自分を指さしアピールする彼はひたすら嬉しそうであった。 「僕です! 高校のときに、茶道部で後輩だった、戸渡 志月(とわたり しづき)!」 「……あっ! 途中入部してきた……」  そう言われてやっとわかった。高校時代、確かにこんな子がいた。 「そうそう! そうです! あー、そうですよねぇ、先輩とは半年も一緒に過ごせませんでしたし、忘れちゃっても……」  そうだ、彼は幸希が三年生のちょうど今頃の季節に入部してきた。どうしてこんな時期に入部してくるのだろう、と不思議に思ったことを思い出す。  でも忘れていたなんて失礼だろう。彼のほうは覚えていてくれたというのに。 「あっ、ご、ごめんなさい」 「いえいえー、仕方ないですよー」  彼はまるで気にした様子もなく、ただにこにこ言った。そこへ当たり前のように上司が割り込む。
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