2章:オフィスに懐かしいお客さん

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「運命的な再会みたいだが、想い出話はあとにしろよ」 「あっ、す、すみません!」  彼は「あちゃあ」とばかりに髪に手を突っ込んで小さく頭を下げた。 「じゃ、じゃぁね」 「はい!」  動揺しながらも幸希は戸渡の上司にも小さく礼をして、その場を退散する。こんなところで高校の後輩に再会するなんて思わなかった。  まぁ、ありえないことではないだろう。  幸希の実家は、千葉。高校を卒業して大学を卒業したあと、就職のために都内へ出た。現在では都内で一人暮らしだ。  千葉から都内へ出るのはそう難しい距離ではない。つまり、通っていた高校と極端に離れてはいないといえる。実際、高校時代の女友達もまだ近くに多いのだし。  でも驚いた。  薄い壁の向こうの事務所の自分のデスクに戻りながら、ついつい聞き耳を立ててしまった。  戸渡ははきはきとした口調で「これまで恵比寿店にいましたが、この度、日暮里店へ配属となりました!」と自己紹介している。  へぇ、日暮里。あのへんだと扱っているのは日暮里、西日暮里、それから巣鴨とかかしら。  職業上、幸希はあのあたりの物件を思い浮かべた。  幸希の居る駒込店とはかなり近い。行動範囲も重なるかもしれない、と思った。  そのあとは自分の仕事に戻って、かたかたとキーボードを叩いていたのだが、話はほんの三十分もかからず終わったらしい。  「では、このへんで」という声や、がたっと席を立つ音が聞こえてきた。
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