ボクは神様

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全社員の顔がわかるような大きくはない会社に転職した麻衣は、早い段階から仕事を任されるようになっていった。 無我夢中で仕事と取り組めたことで、彼のことを思い出すこともなく、また新しい彼を作ろうという心の余裕も、良くも悪くも持てずにきた。 新製品発売のプロジェクトが一段落を迎え、麻衣は転職して初めて肩の荷を下ろせる気持ちでいた。いつもは足早に通り過ぎるだけの公園のベンチに、腰を掛けようなんて思う自分に改めて驚くほどであった。 今夜は月が輝いている。 公園のジャングルジムを見た時に、彼を思い出した。 デートの後、麻衣のアパートから近いこの公園まで、彼はよく送ってくれた。 あの頃の麻衣は、少しずつ仕事を覚え、少しずつ周りの人達と仕事を進めていく機会が増えてきていた。 仕事がうまく進まないときは、よく彼に相談に乗ってもらっていた。相談だけじゃなく、よく愚痴もこぼしていた。 協力的に仕事を進めてくれる人達がほとんどだが、ほんの数人だけは思う通りにならない人も含まれていた。麻衣は、そのわずかな連中が許せなかった。 「ちょっと言い方を間違えただけで、ヒステリックに注意するのよ、まったく」 「結局、あの人は自分の出世しか考えていないのよ。自分の手柄は自分のもの、他人の手柄も自分のものっていうタイプね」 「もうちょっと相手を思いやった表現ってできないものかな。折角、同じ目標に向かって一緒に仕事をするんだから、気持ちよくやりたいじゃない」 あの頃、6歳年上の彼は、今から思えば麻衣の愚痴をよく聞いてくれていた。 「女はただ聞いてくれるだけでいいのに、男は解決策を示したがる」と言われるように、彼も一方的に聞くだけでなく、解決策を提示しようとした。そういう意味では、彼もまだ若かったのだろうし、彼自身の仕事で彼もまた精一杯だったのかもしれない。 麻衣は自分のわがままだと自覚しながらも、もっともらしい解決策を提示する彼に少しずつイライラが募るようになっていった。
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