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「小学生の時さ、ジャングルジムのてっぺんに登って校庭で遊んでいる友だちを眺めたことある?」
彼が昔、この公園で言ったことがある。
「上から見るとさ、あいつが誰かに意地悪をしてるとか、あいつだけがひとりぼっちになってるとか、よく分かるんだよ」
あの頃、そう優しく話す彼を麻衣はジャングルジムの下から見上げていた。
「仕事がいっぱいいっぱいになった時にはさ、ジャングルジムから眺めた景色を思い出すんだよ。そうするとそれぞれに事情があるんだろうなって思えて、少しやり方を変えてみようっていう発想になるんだよ」
昔の麻衣は、自分の仕事がうまくいかないことに対して、彼が冷静さを気取っているように思えて素直には聞けなかった。むしろ上から目線のお説教を受けているようで腹が立った。
「なんか全てお見通し、まるで神様ね」
麻衣はいじわるを言った。
「そうだよ、麻衣、ボクは神様なんだよ。そう思えば、色んなことが冷静に見渡せるようになるだろ」
4年前、麻衣は仕事のことや彼とのことに閉塞感を感じていた。そして、すべてをリセットしようと転職をした。
今もジャングルジムは月の光に照らされて、この公園に静かに佇んでいる。
あれから4年が経ち、麻衣も仕事でいろいろな経験をし、いろいろなハードルを超えてきた。あのまま彼と付き合っていれば、どういう人生だったろう。
今の麻衣には彼の言葉を受け入れ、理解することができる。大切なことを教えてくれていたんだという感謝を深く感じる。
麻衣は、バッグからスマホを取り出し、彼の電話番号で「発信」を押した。
ル、ル、ル、ル、 、 、 、
今でも、この電話番号が使わていることが嬉しかった。
「もしもし、麻衣?」
彼の懐かしい声が麻衣のスマホに戻ってきた。
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