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その“霧雨の君”──いや、西洋風なので“霧雨のギャルソン”と呼ぼう──は、お店を出るなり黒板ごとイーゼルをひょいっと持ち上げてはパタンと畳み、再びドアチャイムを鳴らして店内へと引き下がっていった。
──雨が降ってきたから、黒板とイーゼルをお店の中に下げに出てきたんだ。
手際のよい動作の、ほんの一瞬の出来事だった。
カチャリ、とそっとドアが閉まると、私の中のフィルムがまた通常のスピードでカタカタと動きだした。
そしてハッと我に返り、何事もなかったかのように歩きだす。
お店を通り過ぎようという刹那──。
(……やっぱりかっこいい……)
今度は、惚けて呟くように。
私はもう一度お店に振り返っていた。
あんなお洒落なお店だから、きっと店員さんも──なんて妄想を掻き立てられてはいたけど。
(──…まさか、あんなに……だなんて──)
芳しい珈琲の匂いのしそうな、お洒落でアンティークな風合いの漂うカフェ。
ずっと憧れていたお店。
その中で働く、ギャルソンエプロンの似合う素敵な人。
(……いつか、勇気出してあのお店に行こう)
とくとくと高鳴る胸の内に「よし」と決意を固めて、傘の柄をきゅっと握りしめる。
いつか、いつか、
そのうち、きっと、絶対に──……
───
───………。
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